ヒトメボ

弁護士

正木裕美

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 「ドメスティック・バイオレンス(DV)」と聞くと、家庭内暴力(家族からの暴力)をイメージしていませんか? なんとなく、まだ結婚をしていない人にとっては遠い問題のような……。そんな想像をしている人もいるかもしれません。でも、実はDVは既婚者だけではなく、未婚であっても起こりうることなのです。

デートDVとは?

 そもそもDV=ドメスティック・バイオレンスという言葉には、明確な定義がありません。一般的には「配偶者や恋人など親密な関係にある、又はあった者から振るわれる暴力」という意味で使用されています。これを、「婚姻関係でない恋人、又は恋人関係にあった者(元彼)から振るわれる暴力」と「婚姻関係にある配偶者からの暴力」とで区別するため、前者を『デートDV』と呼ぶことがあるのです。

 つまり、交際相手から暴力を振るわれたり、心無い言動で傷つけられたり……。たとえ結婚していない相手からの暴力だとしても、それはDVであり、犯罪にもなりうる絶対に許されない行為といえます。

どんな行為がデートDVになる?

 まず、デートDVの典型例として、「身体的な暴力」があります。例えば、次のような行為ですね。

□平手でうつ

□足でける

□身体を傷つける可能性のある物でなぐる

□げんこつでなぐる

□刃物などの凶器をからだにつきつける

□髪をひっぱる

□首をしめる

□腕をねじる

□引きずりまわす

□物をなげつける

 このような行為は、それ自体が「暴行罪」(刑法208条)に該当しますし、暴行によって相手がけがをした場合には、当然「傷害罪」(刑法204条)になり、刑法上の罪に問われます。

 また、嫌がっているのに性的行為を強要すれば、「強制わいせつ罪」(刑法176条)や「強姦罪」(刑法177条)となって、罪に問われる可能性も。恋人という親密な関係にあったとしても、このような行為は決して許されないと肝に銘じましょう。「たった一回だけ」「恋人だから」なんて言い訳は、全く通用しません。

言葉の暴力はデートDVになる?

 DVといえば直接的な暴力をイメージするかと思いますが、それだけではなく「精神的なもの」も含まれます。

□大声でどなる

□実家や友人とつきあうのを制限したり、電話や手紙を細かくチェックしたりする

□人の前でバカにしたり、命令するような口調でものを言ったりする

□大切にしているものをこわしたり、捨てたりする

□外で働くなと言ったり、仕事を辞めさせたりする

□なぐるそぶりや、物をなげつけるふりをして、おどかす

 たとえばお金や女性にだらしない彼に文句を言ったり、思ったことを話したりするのだとしても、それを大声でどなったりすればDVになりえますし、プライベートな空間ではなく、不特定または多数の人の前で、バカにしたり、立場を悪くするような言動をすると、「侮辱罪」(刑法231条)や「名誉棄損罪」(刑法230条)になる可能性もあります。

 また、精神的な暴力を振るった結果、 相手がPTSD(心的外傷後ストレス障害)など精神障害になってしまうと、「傷害罪」(刑法204条)で罪に問われかねません。

デートDVにも「DV防止法」は適用される?

 DVで問題とされている行為は、犯罪として対応できる可能性はあります。でも実際のところ、被害者は加害者が近づいてくるだけでも怖いのに、逮捕等ができなかったり、刑が決まるまでには時間もかかったり……。デートDVにおいては、加害者が社会復帰したあと被害者に近づいてはいけないという決まりはありませんでした。

 そこで、「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」(通称DV防止法)という法律が平成26年1月に改正されました。

 これまでは、「婚姻関係や事実婚関係の相手からのDV」が対象でしたが、この改正によって、「生活の本拠を共にする交際相手(同居を解消した相手も含む)からの暴力」も対象になりました。DV防止法の対象となる間柄にあり、身体に対する暴力や生命等に対する脅迫を受けた場合には、加害者が被害者に近寄らないようにするために、裁判所に、接近禁止命令、退去命令、電話等禁止命令などを出してもらうことができます。

 もしDV被害にあっている、またはDV防止法にあたらない交際関係(同棲していない恋人など)からの暴力で悩んでいる場合は、相談窓口、警察や弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。DV防止法だけでなく、ストーカー規制法や仮処分等で対応できることもありますよ。

 交際相手から暴力を振るわれたり、心無い言動で傷つけられたりと聞くと、「そんな酷い人とは別れてしまえばいい」と思うかもしれません。でも、当事者になると、精神的にも簡単には別れられない深刻な状況に追い詰められてしまっていることもあります。デートDVは、いつ自分が当事者になるか分からない、とても身近なことなのです。

(正木裕美 弁護士/アディーレ法律事務所)
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