ヒトメボ

和文化おもてなしコーディネーター

塩田紀久代

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 現代ではレディファーストが定番となっていますが、今も残る「三歩下がって歩く」という言葉が表すように、昔の日本では女性が男性を立てることが美徳とされていました。こうした「男性を立てる」習慣や作法について、日本文化に詳しい和文化おもてなしコーディネーターの塩田紀久代さんにお話を伺いました。

「『三歩下がって歩く』というのは、女性にとって男性が敬うべき存在であるということの表れなんです。江戸時代の頃は、男性と比べて女性の地位は格段に低く、嫁ぐことで初めてある程度の地位を獲得できる時代でした。女性は、男性に従わないと生活や地位を得られないという厳しさから、『男性を立てる』習慣や作法が生まれたんです」(塩田さん)

 なるほど。そうせざるを得ないという背景もあったんですね。だとすると、女性の地位の高くなった現代では、あまり必要のない作法ということでしょうか?

「そんなことはありません。もちろん何もかも男性に従うことはありませんが、さりげなく男性を立てられる作法を覚えておくことで、お互いの関係性や一緒に過ごす時間をよりよいものにできると思いますよ」(同)

 そこで、現代でも使えそうな、「男性を立てる」作法について具体的に教えていただきました。

デートで食事するときは?

「お会計の際、男性がお金を支払っている間に、先にお店を出てしまうのはNG。店内で待ち、男性に先に外に出てもらうことで、男性の威厳を守れます。奢ってもらうのであれば尚更ですね。また、外に出る際に振り返り、お店の方にそっと会釈すると、『内助の功』を感じさせる振る舞いになります。これらの作法を懐石料理店やカウンターのお寿司屋さんなどで行うと、お店の方は『この女性は作法をわかっているし、連れている男性も鼻が高いだろう』と、自分だけでなく男性の評価も上げられます。

また、『男を立てる』作法以外に、アクセサリーに関する作法も覚えておきましょう。食事の席に着いたら、指輪や腕時計は外してバッグにしまいます。これは、装飾品でテーブルや器を傷つけないためです。日本では木製の食卓や焼き物の器などは調度品として愛され、扱いに気を使うことは当然とされてきました。明治維新以降、時計や指輪などの舶来品の普及により、昭和初期頃に生まれた作法です。テーブルにクロスが敷いてあるときは、傷つける心配がないので、外さなくても大丈夫ですが、器や皿は食事を盛る『もてなしの道具』ですので、大切に扱いましょう」(同)

男性の家を訪ねるときは?

「普通、靴下は履いていると思いますが、裸足でお宅に上がるのはマナー違反です。床に足の皮脂がつき、汚してしまいます。靴下を履いていくか持参することで、男性への敬意を表せます。この作法は、靴を脱ぐ文化のある日本だからこそ。お茶の席などでは、『茶室という空間と居合わせた客同士の一期一会の時間を穢さない』という意味で、白い靴下を履くことが多いんです。足袋が白いのも、そういう理由なんですよ。室町時代頃に茶道など、室内の伝統文化が発達し、生まれたと考えられます」(同)

男性とともに和室に上がるときは?

「洋室のときは、レディファーストのマナーで女性が先に室内に入ることが多いと思いますが、和室では男性が先に入り、上座に座ってもらうのが習わしです。ちなみに、和室の上座は床の間に一番近い場所。ずかずかと女性が先陣を切るよりも、男性が堂々と上座に座り、女性が隣にそっと寄り添うことで、男らしさ、女らしさが強調され、席をともにする人たちに『すてきなカップルだ』と思ってもらえるはずです」(同)

 すべてに共通しているのは、男性はもちろん、空間を共有する人や物への「さりげない心遣い」という部分ですね。

「そうですね。『三歩下がる』というよりも、男性に『一歩譲る』奥ゆかしさと賢さを手に入れてほしいです。男性を立てる気遣いは、男性に自信を与え、頼れる存在にしてくれると思います。相手が同僚や友人のときも、その気遣いが互いの信頼感を生み、良好な関係が築けると思いますよ」(同)

 こうした日本古来の作法をうまく生活に取り入れられたら、自分自身にも相手の男性にもプラスに働きそうですね。草食系男子が多い今だからこそ、女性側のさりげない気遣いで、男性に自信を持たせてあげてはいかがでしょうか。

(有竹亮介/verb)
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ライター

有竹亮介

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