ヒトメボ

日本大学法学部新聞学科准教授

小林義寛

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読了時間:約6分

 道を歩いていてイケメンや美少年に出会う確率はそんなに高くないかもしれませんが、外に出れば必ず出会える個性豊かなオジサン達。「オジサンが好き!」と言うと「ファザコンなの?」といぶかしがられるかもしれませんが、実は近頃「オジサン萌え」が密かなるブームなのです。

 話題となった『おじさん図鑑』(なかむらるみ/小学館)や『おじさん画報』(学研パブリッシング/学研マーケティング)といった書籍のほかに、有名声優が登場するドラマCDの売上も好調で、オジサン萌えに関するイベントも多数開催されています。

 今回はオジサン萌えの実態について、日本大学法学部新聞学科の教授・小林義寛さんにお話をお伺いしました。

オジサン萌えブームの火付け役

「昔から、オジサン=ダサイとか、キタナイと言われつつも、『天空の城ラピュタ』のムスカや『鋼の錬金術師』のキング・ブラッドレイには、一定の層で熱烈な固定ファンがいました。でも最近のオジサン萌えブームの火付け役は、アニメで非常に人気があった『TIGER&BUNNEY(2011年)』(略してタイバニ)だと言われています。主人公は妻に先立たれ、新人からはオジサンと馬鹿にされ、実家に預けている娘との仲もちょっと微妙、という踏んだり蹴ったりな設定。しかし、譲れない信念や守りたいもののために頑張るオジサンのかっこよさや、ふと見せるお茶目な姿に、オタク女性はときめきオジサン萌えが一大ブームとなったようです」(小林さん)

 若い男性にはない、深みある設定と純粋とも言える頑固さが魅力のオジサン。なかなか奥が深そうです。

オジサン萌えの特徴

 オジサンと一概に言っても千差万別、お金持ちもいればリストラされて行くあてのないオジサンもいます。線の細い文系オジサンから、年をとっても若々しいワイルドなオジサン、多少お腹の出ただらしないオジサンもいますが、それぞれちゃんと「萌え」ポイントが存在します。代表的なオジサン萌えをタイプ別にみていきましょう。

*クールの中にお茶目のチラリズム「インテリ・教授タイプ」*

【特徴】

非常に物事をスマートにこなすが、世代間ギャップによる可愛らしいミスや勘違いがある。

年齢に即した生活を楽しんでおり、精神的に余裕がある。

研究や仕事などに特化している代わりに、世捨て人のように、世間に疎いケースもある。

【セリフ例】

(ハイヒールを履いて階段を降りようとしたとき)「お嬢さん、お手をどうぞ。こういうのは大げさなくらいでちょうどいいんですよ」

(大人ですね、と主人公に褒められたとき)「本当はね、もっと余裕ぶりたいんですよ。君といると格好つけようとしてしまうからいけないね」

(遊園地デートではしゃいだあと)「大人気なかったかな? ふふ、でも楽しかったでしょう?」

*脳天気に隠された鋭い眼差し「昼行灯タイプ」*

【特徴】

普段は適当そうに見えるが人生の経験値があり、いざというとき頼りがいがある。

飄々とした言動の裏で核心をつく行動や言動があり、くえない性格と評される。

大体が何らかの重い過去を持っている。

【セリフ例】

(汚い部屋を見た主人公に、ちゃんと片付けて! と叱られたとき)「かよわいオジサンをいじめないでくれよ。俺は朝から労働して疲れてんの」

(意地悪な取引先に怒る主人公に)「ヤダねえ、カッカッしても問題は解決しないよ。ほら、スマイルスマイル!」

(昔話の途中で急に黙りこんで)「…聞いて楽しい話じゃないよ。まあ、いつか笑って話せるようになったら、おまえには聞いてもらうかもな!」

*横顔に差し込むアンニュイな影「ニヒル・哀愁タイプ」*

【特徴】

世にある不幸を一身に背負い、人生を悟っている感がある。見方を変えると厨二病チックなセリフも多い。

常に冷静沈着なため冷めた人物と見られることも多いが、心には熱き情熱が眠っている。

中には不自然なほど女性にモテるキャラクターもいるが、本人はいたって硬派を気取っている。

【セリフ例】

(終電間際の場末のバーで、ウイスキーを片手に)「すべてを忘れたい、そんな夜もあるさ」

(沈みゆく夕日に目を細めながら)「辛くても明日はやって来る、俺に明日があるかは誰にも分からないけどな」

(抱いて! と主人公に抱きつかれて)「やめとけ、一生忘れられなくなるぜ?」

オジサンとは「カッコ可愛い」ものである

 オジサンの魅力とは、渋さや世慣れしたスマートだけではありません。一番重要なのは、実は「可愛らしさ」なのです。

「一時期、LEONなどの雑誌が発信したチョイ悪オヤジというのが流行りましたね。チョイ悪でもロマンスグレーでもかまわないのですが、オジサン萌えとは、ジローラモみたいに、そこにプラスした、『隙』と言ってもいい可愛らしさを加えることで起こります。分別のある大人の殻を被ったオジサンの、可愛いこだわりや子供っぽさに触れたとき、『オジサン』という壁がなくなり、女性にとってぐっと近い存在に感じられるんですね。女性としては『大人だし何でもできるから構えちゃってたけど、オジサンも可愛いとこがあるんだなあ』となって萌えが発生するわけです。ちょっとしたギャップ萌えですかね?」(同)

 たいていのオジサンは自分のことをオジサンだと思っていますが、大人だとは思っていません。大人であろうとしているだけです。普段は社会的立場もあり大人として振舞うオジサンがふと見せる可愛らしさに、女性たちは微笑ましさを覚えます。それが自分のために取った行動の結果だったら、微笑ましさはトキメキに変わるかもしれません。

 ここで取り上げたオジサン萌えはごく一部。オジサンの数だけオジサン萌えが存在します。日常生活で「職場にオジサンしかいない」と嘆いている方もいるかもしれません。しかしそんな人こそ少し目線を変えて、周りを見渡して見て下さい。オジサン萌えという視点を持つことで、毎日が楽しく過ごせるかもしれませんよ。

(小林妙子)
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ライター

小林妙子

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