ヒトメボ

鹿児島大学法文学部人文学科教授

内山弘

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読了時間:約5分

 「kwsk」、「mjsk」、「wktk」…ネット上で頻繁に見られるアルファベットの羅列。初めて目にするときは意味が分からず、戸惑う人もいるようです。

 それぞれ意味は「kwsk=クワシク」「mjsk=マジスカ?」「wktk=ワクテカ(ワクワクと期待している状態)」「ktkr=キタコレ」(待ち望んでいたものが来た状態)」を表すものなのですが、この独特の表現、どのように生まれどのように広がっていったのでしょうか?

 日本語学を研究する傍ら、20年以上ネットワーカーとして活動してきた鹿児島大学法文学部人文学科教授の内山弘先生に教えていただきました。

ネット語の発祥

「上記の例はいずれも巨大掲示板『2ちゃんねる』で生まれた表現です。中でも『kwsk』は2004年の創設以来、一番人気を誇る 雑談系の掲示板『ニュー速VIP』が発祥の地。『ニュー速VIP』はスレッドの進行が非常に早いという特徴がありました。話題に追いつくためには書き込みを急がねばならず、誤変換や文字短縮が元になった様々なネット用語が生み出されることになったのです」(内山さん)

*誤変換の例

『~杉(=~過ぎ)』や『藁(=笑)』など

短い書き込みを尊ぶ文化

「前述の書き手の都合もありますが、総じて『2ちゃんねる』では長文カキコ(書き込み)は読み手側にも嫌われる傾向にあります。とりわけ当時から書き込みの勢いが凄まじい『ニュー速VIP』では短い書き込みを尊ぶ文化があるので、1回に盛り込める情報はどうしても少なくなります。

詳しい情報を知りたい場合は、急いで積極的に意思表示をしないと話題がどんどん進んでしまうため、『kwsk』が重宝されたのでしょう。答える側も要求されれば、たとえ長文レスを書いても非難されることは少ないですし」(同)

 このやりとりが定着し、「詳しく教えて!」すら省略されて「kwsk」に。さらに同じようにして、文字入力の省力化を図ったものが「kwsk」「mjsk」「wktk」「ktkr」のようなローマ字+母音省略タイプの表現になっていった…とのこと。

 でも、時間節約のために省略というなら、「詳」でも「くわ」でもいいところ。「くわしく」と同じ4文字を使って「kwsk」とローマ字で表記しているのはどうして?

「最近は携帯から書き込む人も増えましたが、当時はパソコンからが大半でした。キーボードで日本語を打ち込む際は、ご存じのとおりローマ字入力が主流。ですが、一文字を入力するためにア行以外は子音→母音と二回のキー入力が必要だという欠点も。そこで一文字を二回でなく一回だけ打つことで時間の節約を図った結果です」(同)

 この表現が掲示板ユーザーにウケて、ネット上で広まっていったそう。また、ここまで定着したのには他にも理由があるのだとか。

視覚的効果で目に留まるため

「膨大な書き込みの中で自分の書き込みを不特定手数の目に留めてもらうためには、あの手この手で目立たせる必要があるんです。現代の日本では漢字かな交じり文が主流ですので、そこにアルファベットの羅列表記が突然出てくると非常に目立ちます。『2ちゃんねる』のように、ユーザーが文字のサイズや色を変更できず絵文字も使えない掲示板では、視覚的効果を得る非常に有効な手段であると言えますね」(同)

暗号化による一体感があるため

「ふたつめの理由は、仲間意識の共有という目的。アルファベットの羅列は暗号のようなものです。これらを意図的に使うことで、部外者を排除し仲間同士の意識の共有も図れるというわけです」(同)

 ネット語を共有することで得られる、一体感とより深いコミュニケーション。自分たちにしか分からない言葉を使うことで、仲間意識が高まるのはどの社会でも同じなんですね。

 ここで気になることがひとつ。ギャル達も『KY(=空気よめない)』など、同じようにアルファベットを羅列した略語を以前から使っていましたよね。熱心なネットユーザーではなさそうな彼女達が使う理由は?

ギャルと略語は好相性! より暗号性の高い独特の略語も

「若い女性たちのコミュニケーションツールとして盛んなのは携帯メール。スマートフォンが普及する以前から考えると、携帯の文字入力方法はア~ワ行を連打するトグル入力が主流だったかと思います。1文字につき1~5回の文字入力を必要とするこの入力方法はキーボード入力以上に手間がかかり、省略化の欲求が大きかったことでしょう。そういった理由で、省略化とは相性がよかったのではないでしょうか」(同)

 ちなみに、同じ略語でもギャルが使用していた『mktk(=むかつく)』などは、掲示板ユーザーはあまり使わないように思います。ギャル語やギャル文字は専門外とのことですが、この違いはどこにあると思いますか?

「『mktk』の発祥は定かではありませんが、確かに『2ちゃんねる』ではあまり見かけませんね。しかし、“打ち込みの省略化”、“仲間意識”など、基本的にはギャル語もネット語も成立過程は同じ。

ただ、ギャル語は口語性や省略の度合いが強く、より仲間内でしか通じない隠語的性格が強いものが多いように感じます。これらはおそらく、不特定多数に読ませることを前提としたネットの掲示板にくらべて、最初からギャル同士の会話を出発点としているために起こるのでしょう」(同)

 同じように「打ち込みの省略化」と「仲間意識」から成り立つ、ギャル語とネット語。スマートフォンが普及し、ネットユーザーのギャルも増えた今、次に生まれてくるのはどんな言葉になるでしょうか。

(志賀むつみ)
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ライター

志賀むつみ

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