ヒトメボ

泌尿器科・内科・皮フ科医

中村剛

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読了時間:約5分

 男性ならおそらく一度は穿いたことのある下着「白ブリーフ」。筆者は小学生の高学年にあがる頃から、なぜかブリーフを穿くことに気恥ずかしさを覚えてトランクスに移行しましたが、同じような経緯の男性読者も多いのではないでしょうか?

 今では、成人男性の大半はボクサー派かトランクス派のどちらかで、白ブリーフを穿いている若者は、公衆浴場などでもほとんどみなくなりましたよね。

 でも、昔は白ブリーフしかなかっただろうし、発売したての頃は、きっとかっこいいものだったはず(?)。なぜ、白ブリーフの人気は衰退していったのでしょうか? まず、白ブリーフの誕生を調べてみました。

1934年、アメリカで白ブリーフ誕生

 テレビ東京系列で放映されていたテレビ番組「ジョージ・ポットマンの平成史 白ブリーフ編」によると、アメリカのアンダーウェアメーカー「ヘインズ」が現在のブリーフの原型となる下着『スポーツ』を1932年に販売 。その後、1934年に「ヘインズ」のライバル社であった「クーパーズ社」の当時のデザイナー、アーサー・ナイブラー氏によって白ブリーフが開発されたことが分かりました。当初は『ブリーフ』という名称ではなく、乗馬選手が股間を隠すために使っていたジョックストラップをヒントに制作したことから、『ジョッキー』と呼ばれていたそう。

 それまでアメリカで男性が着用していた下着は、体全体を覆うつなぎのような『ユニオンスーツ』と呼ばれるものだったそうで、それに比べて着脱がしやすく見た目にもスマートなブリーフ型の下着は、機能性・ファッション性においても画期的だったことが想像できます。いずれにしても、歴史を紐解くとブリーフの登場は1930年代初頭にまで遡ることが分かりました。

1950年以降に日本で普及、爆発的に浸透

 そこから日本国内で普及するのは、戦後、外国からの輸入が始まる1950年代中頃になってからのようで、それまでは猿股やふんどしが愛用されていました。白ブリーフが発売されるや否や、斬新なデザインや体にフィットした穿き心地、Yフロントの排尿時の機能性が若年層に受け、爆発的に浸透していったのだとか。

 その後1970年代まで白ブリーフは日本人男性にとって年齢問わず最もスタンダードな下着として愛用されていたよう。しかし、愛用されたのはこうした機能性・ファッション性の他にも、魅力的な一面があったようで…。

健康の証明にも役立った白ブリーフ

「開発当初に意図されたかは定かではありませんが、白ブリーフは、大人にとってクラミジアや淋菌などが影響する性病・尿道炎、毛じらみ症を判断する上で効率的なデザインなのです。もし尿道炎にかかると、性器から黒い膿みが出ますし、毛じらみ症に感染すると、出血痕が残ります。どちらも基本的には自覚症状が出るのですが、まれに自覚症状が出ない場合もあります。白ブリーフはそうした場合の、『リトマス紙』的な役割を果たしてくれるのです。

また小さい子供を育てる母親にとっては、子供のおねしょや排泄後にきちんとお尻を拭けているかを確かめる上で非常に有効でした。今でも小学生にあがるまでの子供に白ブリーフを穿かせるケースが少なくないのは、このためだと考えられるでしょう。子供も大人も白いブリーフを清潔に穿きこなせることは、すなわち自分が母親やパートナーの女性に『問題を抱えていない』ことを示し、健康の証明にも役立っていたのです」

 とは、飯田橋中村クリニックの中村剛先生。白ブリーフは単なる下着としてだけでなく、側面的な役割も果たしていたのですね。しかし、1980年代後半以降、その人気は下降していくことに…。

ネガティブな印象が広まり、徐々に衰退

 その要因のひとつは『サーフィンブーム』の到来によると、先述の番組内で指摘。これは浜辺など人前で着替える機会が増加し、他人の目に晒す下着として「そのまま歩いても恥ずかしくない」という感覚から、トランクスが若者達の間で広まっていったため。

 さらに、人気を落とす決定的要因となったのが、1981年におきた、深川通り魔殺人事件。当時、白ブリーフにハイソックス姿で犯人が連行される姿がメディアで報じられ、若者達が白ブリーフにネガティブな印象を抱くようになったとされています。しかし、中村先生は他の側面からも白ブリーフ人気衰退を分析します。

「膨張色の白は股間のふくらみやお尻のラインが強調されるので、時代の変化とともに女性陣から、男性のその姿を嫌がる声が強くなっていったと思います。また、『ブリーフはトランクスに比べて、通気性が悪く蒸れ、さらに睾丸を上に締め付けるため生殖機能に悪影響を及ぼし精子数を減少させる要因にもなる』という説が一般に広まったことも、人気衰退の一因と言えるでしょう。実際それは事実で、当院でも不妊治療の一環でボクサー派の人にトランクスを薦めることもあります」(同)

 なるほど。ファッションの嗜好の変化や、事件の影響をきっかけに白ブリーフのイメージがダウンしていったこと。そして、当初よしとされた「機能性」が、新たな事実が明らかになったことで疑問視されたことが、人気衰退につながっていったようですね。男児の頃お世話になった白ブリーフにこんな歴史があったとは…! 勉強になりました!

(冨手公嘉/verb)
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ライター

冨手公嘉

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